NOC 図面担当、河口と申します。あきみち君のブログでも以前ご紹介頂きましたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。図面担当は ShowNet のトポロジ図だけではなく、ポップや壁紙もやるような、NOC チームの中でも本筋からちょっと逸れたポジションです。
本日は、そういった一見地味な仕事の目線で ShowNet 構築のゲンバのお話をしようと思います。
私が INTEROP へ初めて参加したのは学生の頃ですから、かれこれ 17 年にもなります。華々しい NOC のエリート軍団とは異なり、雑草のような私がこれほど長期に渡って採用されたのも、ひとえにこの特技:図面に熱くなれる。これに他なりません。
それが連中にバレてからというもの、なんたることでしょう。ShowNet の図面を 12 年間も引いています。
これをお読みの皆さんから見れば、INTEROP も普通のイベントとさほど変わらないように見えるかもしれません。しかし実際には、ゲンバでの構築期間の長さという点でかなり特異なイベントです。皆さんが訪れる会期が始まる二週間も前から、幕張メッセのゲンバでは熱い戦いが繰り広げられているのです。むしろ、私たちにとってはこの準備期間が本番といえるでしょう。
特に前半の約八日間は〝HotStage〟と呼ばれるもので、NOC 予定地となるホールを一つ借りてその機能をあらかた完成させます。
ご覧のとおり、この期間は左奥に見える NOC ブースのみが造作され、他の空き地は私たちが詰める机、樽ファイバのバッファ、電気屋さんのワークエリアとして活用されます。
HotStage を終えるとホール数を本番の広さへと拡張し、各ブースを収容するための NOC から下向きの配線を行ったあと、出展社様の造作がはじまります。造作を終えてデモが走りはじめると、ShowNet への接続性に関する様々なレベルの障害が上がってきます。私たちはそれの解決に全力であたりながら会期を迎えます。ですから、ご来場の皆さんが会場で見ている本番というのは、実際には〝数々の戦いが繰り広げられて平和になった状態〟と言えるでしょう。
大部分のエンジニアが USB シリアルを首に下げて、箱やヒモ――装置やケーブルのこと――と戦っている中、私はずっとマウスを片手に画面を睨みつけています。いや、私も戦っているのです!初めは敵そのもの、しかしそのうち味方となる〝図面の白い部分〟...そうしてゲンバで無理をし続けていると、ゲーマー (謎) だった頃に患った腱鞘炎が、作業の足をじりじりと引っ張っていきます。
さて、かつての NOC ジェネラリストの〝ゆーき先生〟は頭脳が明晰すぎる上になかなかの辛口で、普通に会話していたはずが、そのうちコテンパンにされます。また、この人はコードをごりごり書いてトランス状態に入るとどんどん足が伸びてきて、いつの間にやら姿が見えなくなるほど平らになり、「今俺に割り込みかけたら、わかっとんな...」というオーラを放ち始めます。
私 「くぅー!僧侶時代の古傷が、疼いてきやがるぜ...」
足長 「まーたはじまった」
私 「あれ、居たんすか」
足長 「ずっとおるわ。ええかげん子分でも育てて引退せえ」
そうは言われても、これがなかなか思うようには行きません。
他のポジションは順調に世代交代をしているにも関わらず、こと図面担当に関しては〝そのあまりの地味さ〟ゆえ、最も不人気なポジションです。面白いはずなんやけどな...と思いながらも、NOC の新人はおろか、STM ですら「おまえに弟子入りさせてくだしあ。」と言ってくる奇特な人材はなかなか現れません。それもそのはず、このポジションには図面を引いてると興奮してくるようなどこかアブない資質が必要なのです。そんな私の怪しい姿を長年見てきた彼らは「絵心の無い俺には無理ぽ。」などというもっともらしい言い訳で逃げてしまいます。
ご来場の方々に図面を説明していても、私が普段デザイン系の仕事をしていると思っている方が結構いらっしゃいます。しかし、私はある企業で計算機やネットワークを構築・運用している路傍のエンジニアです。職場のネットワークは ShowNet のような規模であろうはずもなく、メンテナンスしている図面もずっと控えめです。そもそも、私のようなデザイン素人がまがりなりにも務まっているのですから、センスのようなものはものすごく〝いい加減〟な扱いです。
例えばこれは、ShowNet ロゴの変化です。一番上は十年ほど使われていたもので、聞くと事務局が作ったもの...なんだかこう、ものすごくいい加減なにおいがしてきます。私も(いくらなんでもコレはないわー)と思っていました。意匠は特に苦手な分野ですが、計算機やネットに関してはオタクを自負していますから、普段はただの負の遺産もこういう場面では最大限活用すべきです。〝#〟の棒の部分はヘッダとペイロードの形にしてぶつぶつ...そう意気込んで作ったものの、五年経過しても私が繰った熱い思いに気づいてくれる人など、まるで現れません!
打ちひしがれながら暇そうにしている NOC プログラマ〝ますけん先生〟にぼやきました。
私「だいたいやで。このスジのもんやったら # のあとに sh と来たら show と脳内で展開されるもんや。ちゃう?」
ますけん「うーん... root がシェルスクリプト叩こうとしてるほうが、自然かも...」
ぼやく相手を間違えたようです。気を取り直して〝肩もみ大魔神ジェイク〟通称 NOC ジェネラリストに肩甲骨をグリグリされながら聞いてみました。
ジェイク「わかるわけねーだろwww」
なんてこった。〝指紋が消えるってレベルじゃねぇぞ!〟―― NOC オリ君・談、というほど Cisco 方言を叩いてきた連中がこの有様とは、一体どこの私が妄想したでしょうか。発想が少しばかり geek すぎました。それどころか、意匠デザイン的にも完全に失敗作のようです。ロゴは色んなメディアで露出しますから、こういった失敗はそれなりの被害をもたらしていることでしょう。わかる人にわかってもらえればそれでええかな...などと、負け犬の遠吠えごとく賢者タイムを満喫していたのです。ところが、そのうちどこかのブログで〝#sh ネットは~〟とかもうね、まんま字面通りで本当にありがとうございました。
そうして誰でもフツーに読めるものへとこっそり変更し、今のものになりました。私のような素人がちょっと調子に乗ると、大失敗を犯すという好例です。
図面の仕事の話でした。
これは ShowNet のエンジニア達が 2012 年のゲンバで実際に使った図面です。PDF の方はやたら重いので、スマホ等の弱い端末ではご注意ください。
世の中で実際に運用されているネットワークは、セキュリティ上の理由などからアドレッシングの詳細まで公開するようなことはまずやりませんから、オペレーションで使われているネットワーク図も機密文書として扱われます。従って、残念ながらどれほど図面を頑張ったところで、一般の方の目に触れることは、殆どありません。
ShowNet に於いても、公開するバージョンでは IP アドレスを伏せています。しかし、アドレッシングはネットワーク設計のキモですから、それを表に出せないことに歯痒い思いをしていました。ましてこんな記事では、肝心な部分がすっぽり抜け落ちてしまいます。そこで、今年から方針を変えて公開することにしました。ただし、上流の他組織のアドレスだけは迷惑がかかるため伏せています。
さて、図面担当の私はこれを作って〝Show〟に貢献するのが仕事なのですが、事務局の女の子に突っ込まれたことがあります。
「え...それだけ?」
・x・ ―― シングルタスクで飽きるまで突き詰める困った性格は、自分でもちょっと病んでるんじゃないかと思います。そんな私にかかると、図面のような仕事も普通に考えるレベルからはかけ離れた重いタスクになってしまいます。
ShowNet の装置を config するのは NOC メンバ、それにコントリビュータ――装置やそのエンジニアを提供していただいている会社――そして NOC 下部組織の STM の三者で構成されており、総勢百名余りのボランティアが一丸となって構築していきます。
NOC やコントリビュータは、その道のプロなのは当然、中にはエスパー級もごろごろ混ざってたりしますから、図面の表記方法もそういった玄人を対象としています。そのような人々が身に纏う〝業界プロトコル〟が充満する空気の中では、普通はあっても良さそうな大部分の表現はただのノイズとなり、図面の S/N 比を減衰させます。
また、ShowNet における図面作業は、そこに何かを描き込むことよりもむしろ、それを描き込むためのスペースを絞り出す作業のほうが大変です。折角提供して頂いた製品を掲載しないわけにはいきません。いかに図面の見やすさを維持したまま詰め込んでいくか。そのためには出来るだけ冗長な表現を削り、そのぶん限られたスペースを有効利用します。
ShowNet はまた、新しい概念のデバイスが突発的に現れる油断のならない相手でもあります。箱を示すアイコンなどもその都度必要になりますから、そういう時はカタログを ggrks して適当に理解しようとします。それでも分からない場合は、デバイスの雰囲気をコントリビュータから聞き出して、イメージを丸めてでっち上げます。それが次の年に受け継がれることもあれば、そのまま忘れ去られるものもあります。
この OpenFlow の例のように、特に尖ったものを集めて ShowNet の一部にはめ込むこともよくやります。ある部分がなぜそういった接続や構成になっているのか、説明がなければただ無策に箱を積み上げているようにしか見えないため、さわりだけでも図面上で紹介出来ていることも大切です。
とはいえ、そういった図面はご来場の方々にはまるで暗号のようで、かなり難解なものになってしまいます。そのため、これとは別に ShowNet を立体的にした概略図を作ります。これは構築や運用には全く役に立たちませんが、〝Show 機能〟の部品の一つとなることを期待して取り組みます。
ShowNet を構築するためだけに長期間会場を借りていることは冒頭でもお話しました。INTEROP というイベントを運営するコストの中でも、そういった賃貸料や光熱費、それに私たちを維持するためのコストはかなりのものとなります。また、ハイエンドな装置やそれを扱えるエスパークラスのエンジニアのマンパワーを、これほど長期に渡って提供しなければならないコントリビュータの負担は、想像を絶します。
競合するイベントと比較すると、そういった大きな負担が弱点にもなり得ます。それでも尚このような取り組みが出来ているのは、そこに類を見ない集客力という付加価値があるからです。
ShowNet のために遠い幕張まで足を運んでいただいている方が大勢いらっしゃるのは本当に有難いことで、それが私たちの最大の励みになります。不器用な geek という外見せがカタチになった ShowNet は、Internet が大衆化した時に終わりました。図面担当に課せられた使命は、そうして期待してくださっている皆さんのライブ感を盛り上げる一助となることです。これは、エンジニア達へ図面を提供するというミッションと同じぐらい大切なことだと思っています。
そんな図面を作成するワークフローを、ゲンバの雰囲気と共にお話しましょう。