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midashi.png地味だからこそカッコいい。


 ところで私は MMORPG プレーヤです。これは数千人の熱いヤツらが同時接続して遊ぶクライアントサーバ型の RPG で、選ぶ職業によって出来ることと出来ないことがはっきりしているところに面白さがあります。

 例えば、戦士は高い防御力を持ちますが、治癒できません。遠隔攻撃に強い魔法使いは、近接されると脆弱です。ヒーラーは治癒魔法に長けていますが、攻撃はからっきしです。お互い協力しないと生存すら叶わないがゆえに、誰もがどこかで主役になれる。そういった、プレーヤ同士のシナジーを嫌でも引き出すゲームデザインが周到にインプリされています。

 私は 1999 年の EverQuestClericにはまってからというもの、いくつかのゲームを渡り歩きながらも、かれこれ 10 年近くをそのヒーラーとして過ごしました。

 このロールは一見地味です。パーティ最後尾のチキンポジションに立って戦況を睨みながら、敵からの攻撃全てを引き受ける盾役の戦士を定期的にヒールしつつ、ワンパン即死もおかしくない DQN 魔法使いなどにも神経を尖らせて、パーティ全体のバイタルをメンテナンスするのが仕事です。危ない役まわりには次善の策を予め施しておきますし、普段から仲間の防御力の底上げを願うのもヒーラーだけが持つ心理です。


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全員分のバイタルを並べた棒グラフがヒーラーの戦う相手。


 そんなロールには、どこか普段の仕事と似たところがあります。

 ネットワークエンジニアは、インフラを支えているとはいえあくまでも縁の下であって、そこに表舞台に出るような派手さはありません。かといって、突発的に起きる問題を短時間で解決しなければならない重責はしっかり負っています。転ばぬ先の杖を立てまくる努力を人知れずしていても、それは動いていて当たり前の世界。転んだ先にたまたま杖が無かったり、あったとしても体重を支えきれずに折れて自分に刺さったりでもすると、始末書にまみれる減点法の悲哀。ヒーラーを突き詰めていけばいくほどそんな普段の仕事との共通性に気付き、お前は遊びも仕事と一緒なのか?そう自問自答しては、暗澹たる気分になるのです。

 とはいえ、他のロールはどうにも適性がありません。敵陣の只中に我先と切り込んでいく重装の脳筋野郎。火球や氷柱をぶっ放す髭の爺さん。派手で人気のあるそのような職にはなぜか熱くなれず、これ。これ最強。そう確信してヒーラーで遊んでいるのも、もともとそんな役回りが好きな困った性格なのでしょう。

 MMORPG は、プレーヤに忍耐力が問われるゲームでもあります。集団がそういった雰囲気に長時間曝されていると、次第にヒトの嫌な面が剥き出しになるというもの。そんな環境であっても壊れず培われた戦友との絆はやがてかけがえの無いものとなり、数十人でボスを攻略する Raid に毎夜毎夜と明け暮れました。


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ビーチパラソル本部で作戦会議「今日こそヤらないか。」「いいぜ。」 →→→ 「ウホッ」


 ヒーラーは、仲間を殺したら負けという分かりやすい重責を負っているものの、このように支えきれず死者を出してしまうことはよくあります。私たちの総合力がボスと拮抗している場合は特に油断なりません。ボス戦で一人でも死者を出した結果、ダメージのスループットが数 % 低下しただけで次第に歯車が回らなくなり、多くはワイプ...つまり、全滅へとつながります。何週間ものあいだ、毎夜毎夜とワイプの無間地獄に陥ることもありますが、そうやって徐々に研鑽を積んだ暁の勝利は、ボイスチャットのマイクが割れっぱなしになるほど収拾の付かない盛り上がりを見せます。

 剣一振りでなぎ倒せる雑魚。絶対に勝てないボス。そのようなものに面白さはありません。勝つのか負けるのかわからないギリギリの相手だからこそ、そこにゲーム性が宿ります。

 ただ単に出展社様や来場者様のトラヒックを捌くだけのネットワークなら、日常業務の通りシングルベンダーの枯れた箱をひたすら並べて手堅くやればいいでしょう。でも、そこにも面白さはありません。数年先のトレンドとはつまり、勝敗が読めない相手であり、だからこそ技術者として熱くなれるのです。

 そんな Hot な Stage であって然るべきゲンバが、予想に反してまるで何も起きてくれないような順風満帆な年ともなると、次第に落ち着かなくなってきてクネクネしはじめる人たちがいます。そのうち誰かがボソリと、

 「そろそろバグってくんねーかなー」

などと背筋が凍りつくような事を言い出します。無茶ぶり大好きなおじさん達が口火を切ると最悪です。

 なぞ「こいつでインターネットぶっこわしてみよーか!」

と、そんなことを言い出しては〝チャレンジ〟と称して用意していた取り組みを俎上に載せて、ShowNet 慣れしていない新人を青くさせます。


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なにをおっぱじめる気だこのおじさんたちは。――なぞ先生・親方


 幾多の伝説を生んだテストベッドに毎年肩まで漬かってきたネットワークのヒーラー達は、より高みにあるハードコアな戦いを望んでしまう、なんとも悲しい生き物です。エスパー達からの執拗な言葉攻めにとうとう屈したボスキャラが ICMP type 0 を饒舌に語りはじめた瞬間... ExStart から微動だにしなかったツンキャラが、唐突に Full ってデレる瞬間... そんなクライマックスで、脳内麻薬を大噴出するような恥ずかしい体になってしまった連中に、〝今年こそは楽をしよう〟などという発想はありません。

 もうおわかりですね。ラックのガラス越しや私の図面などから漏れて見えるそんなゲンバの最善努力は、ShowNet には欠かせない〝お祭りの一部〟であり、私たちはむしろそれを楽しんでさえいるということを。

 そんな漢気溢れるゲンバで求められる図面とは、はたしてどうあるべきでしょうか。

 全情報をぶっこんで一枚で全てを語りながらも、地獄の淵でもパっと見でわかる。まるで相反する事を同時に満たすことが何よりも優先されます。私のことを〝絵描き〟と呼ぶそんな熱い彼らからの注文には、だからこそ時に手厳しいものがあります。

 親方「よう絵描き、ココわかりにくいからなんとかしろ」

という貴重な指摘もあれば、

 エスパー吉田「絵描きさん。MAC アドレス入ってないんだけど...」

などと、エスパーでなければもはや寝言にしか聞こえない要望にも真摯に耳を傾けます。そうやって積み上げてきた ShowNet の図面は、幕張メッセに集ったヒーラー達の、色んな汁とマゾっぽい快感、プロの知見やエスパーの第六感など、なんだかよくわからない力のシナジーが生み出した、ネットワーク図というものの煮凝りなのです。

 図面の話が大して無かったような気もしますが、本日はこのへんでお別れです。次回は、図面の話を掘り下げようと思います。駄文にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。


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